AJFの活動

食料安全保障研究会公開セミナー
遺伝子組み換え作物・食品をめぐる国際的な情勢

開催日時:2005年7月23日 午後1時〜3時半
会場:丸幸ビル2F JVC会議室
参加者:23人

【セミナー開催にあたって】

  • 本セミナー開催の経緯

    近い将来、GMOが食料援助に利用されていくであろうという危惧から、これが世界でどのように流通しているのか、どのように規制されているのか、という国際的な情勢に今回は焦点を当てた。

  • 講師の渡部さん

    農林水産政策研究所にてGM作物研究チームを始めた。

【渡部さん講演】

※別紙・講演資料があります。希望する方は、AJF事務局へメールを下さい

自己紹介

農林水産政策研究所→農業経済・社会学など社会科学のバックグラウンドをもつ研究者が約50名で北区西ヶ原に所在。その他自然科学系の農業研究機関はすべて筑波へ移った

日本では実験以外にGM作物を商業栽培していない
→GM作物の動向については国際社会の情勢分析が重要との問題意識→GM作物に関する国際動向の研究を2000年より開始

京都大学農林経済学科卒→農林省本省→91年〜94年OECD@Paris→これ以降は国際関係中心の部署に勤務

(講演資料P1)従来の育種とGM技術

GM技術の発展によって

  • 従来の育種(=品種改良)は時間がかかったが、その効率化が可能になった
  • 種を超えた優良遺伝子の交配が可能になった  →  画期的な技術
    '70年代 遺伝子操作技術の発展:クローン、ウィルスフリーなど

(講演資料P2)GM作物が生み出された背景

  • 大変な除草作業
      ↓
  • 除草剤の利用
      ↓
  • 雑草のみでなく作物自体にも被害
      ↓
  • GM作物:除草剤に耐性を持った作物を開発、販売
    例)ラウンドアップレディー(アメリカ・モンサント社)
  
  • 病害虫の被害
      ↓
  • 殺虫剤の利用
      ↓
  • 人体に害があるし、消費者にも好まれない
      ↓
  • GM作物:病害虫に強い性質を組み込む
GM作物の栽培→従来のやり方よりコストがかからない、環境に優しい
例)ウィルス病抵抗性のあるパパイヤ:ハワイでは100%GM(ハワイではGM表示義務がない)
   日持ちの良いトマト:初めてのGM作物

(講演資料P3)GM作物生産の国別状況

アメリカ、アルゼンチン、カナダ、ブラジルがGM作物栽培大国で、これら4カ国が世界の90%以上を占めている
→アメリカはGM栽培最大国
→日本はアメリカからの輸入に食料を依存している
→日本人はGM作物を食べている(特に食用油。ただし表示義務はなし)
GM作物としては:大豆、トウモロコシ、綿花、菜種など、搾油作物や飼料作物が主流

(講演資料P4)GM品種の形質別作付面積

除草剤耐性・病害虫抵抗性:「GM作物生産によって誰が得をしているのか?」

  • →生産者と先進国多国籍企業のメリット
  • →消費者不在になっている

食卓に上るGM食品の種類
国内でGM作物が栽培されていないが、国民はGM作物をすでに口にしている

  • →大豆油はGM大豆を多く含む原材料からの加工品
  • →豆腐、納豆などの形の残る食品→農水省、厚生省はGM原材料比率5%以上で表示義務
  • →つまり、GM作物を使用していても、規定以下であれば表示する必要はない

現実は、消費者の不安に対応した、商品戦略としてのネガティブ表示(「GM作物を含んでいません」というもの)がほとんど←日本の実需者は、非GM大豆確保のための分別流通システムを導入

    

(講演資料P5)GM作物含蓄食品に対する消費者の不安:特に日本では反対者の割合が多い。

  1. 本能的不安感
  2. BSE問題:これがなかったらGM反対はこんなになかっただろう。あれだけ安全だと言っていた行政も信用できない!という思いが高まった。
  3. 一部の科学者たちの実験によるセンセーショナルな報告(例:バズタイ報告)
  4. 食品安全性が未承認のGM作物の混入事件(例:スターリンク事件)

(講演資料P6)GM普及の戦略ミス:「消費者メリット」を追求していれば成功していたのかもしれない。

第一世代:生産者メリット
第二世代:消費者メリット
第三者世代:環境改善
→ GMOは、新たな国際貿易交渉の火種ともなっている。

(講演資料P7)GM作物をめぐる米対EU貿易摩擦問題

モラトリアム:EUがアメリカからのGM作物輸入を一時凍結した状態のこと
   →アメリカ側はEUがGM作物の安全性を理由に、国内農業を保護していると非難

EU諸国「消費者利益」 VS アメリカ「生産者利益」
→WTO紛争処理パネルに提訴(2003年8月)→現在まで続いている
→パネル栽培の結果によって、世界的にGM作物貿易に関する一つの決着がつく
→裁判結果は、農業を主産業とするアフリカへも大きな影響を及ぼす
:貿易品目としての農業作物、緊急食糧援助の受け入れ、外来種の混入による特許問題 など
 例外)南アフリカ・・・GMトウモロコシ、綿花の栽培。GM法が存在 →→GMOの取り扱いについては、EU内で二段階制をとっている

  • EUレベルでのGM規制
  • それぞれの国におけるGM規制(各国ごとの規制のほうが強い傾向)
    例えば、スペインではすでにGMトウモロコシを栽培しているが、ドイツでは規制されている

(講演資料P9)GMOの安全性を図る概念

アメリカ:実質的同等性
個別GMOの長期にわたる比較研究が難しいので、類似作物に代替して安全性を証明するための概念
EU:予防原則
科学的に根拠はないが、予防的にSTOPをかけられるやり方
EU:Traceability
商品の流通過程の追跡可能性
   

(講演資料P10)GM作物の国際的規制の現状

それぞれの機関・協定は「帯に短し、たすきに長し」:部分的(科学的、法的など)には対応しているが包括的でない。

追加配付資料

  • ラベリング・レギュレーション→国によってかなりバラバラ
  • GM貿易と所得状況の相関図 横軸:左GM生産−右GM非生産
    縦軸:国民一人あたりのGNP→アフリカは右下の象限に追いつめられている。

米はそれらを左下に動かすように働きかけている

(講演資料P19)まとめ

「バイオテクノロジー戦略会議」

GMに限らず、社会の合意形成が必要になってきているのではないか
自然科学と社会科学の融合。現状では、科学技術の進展ありき。
WTOパネルの結論が出ることでGMO論争に終止符が打たれるのかどうかは疑問
アフリカに対する課題も無視できないものになってくるだろう。
科学者は急いで開発している→社会との対話が必要


【質疑応答】

・アジア学院校長 田坂さん

Q:1997年オタワでのCODEX会議に消費者代表として参加した。その際、実質的同等性が米側の主張の基盤になっていたが、タンパク質が一部異なるのだから科学的に論理づけられているとは言えないのではないか。OECDで強いのはアングロ系国家である。アフリカの飢えにつけこんで、途上国がGM食料援助を受け入れざるをえなくなるような現状に、憤りを感じている。先進国によるGM作物の食料援助は、多国籍企業による商業利益追求の姿勢が強い。弱者である途上国が先進国の強要に対して、GMの安全性を科学的に反論するのは難しいのではないだろうか?

A:これまでもアメリカによる実質的同等性概念はずっと用いられてきていて、市民権を得ている。
また、アングロ系国家を中心に、これについてはOECDでは議論の余地なしという立場が取られている。一方で、フランスやデンマークなど、GM作物に慎重な立場を表明している勢力もある。

Q:それでは、実質的同等性の議論に代わるGMOの安全性に関わる議論はないのか?
これまで、サリドマイド使用の認可がおりてから、その胎児にたいする毒性があらわになった事例や、特にGMOの場合、アレルギーを起こす可能性の問題など、食品の安全性に関しては様々な議論が交わされてきていた。にもかかわらず、「実質的同等性が市民権を得ている」というだけの理由でGMOの安全性が審査されないというのは、消費者の不安を大きくするだけなのではないか。

A:アフリカでは、各国の「公、官」の構造が整っていない状況に、GMOが入ってくる状況である。
「公、官」が主導して、そこに農民が参加できた緑の革命とは、同じ論理を適応してはならない。GMOについては、「民間」、企業主体で話が進んでいる。そこには消費者が不在であり、要となる「公、官」がGMOの現状を統制できなくなっている。特にアフリカでは、「公、官」における構造の確立など、基本的な部分への援助がまず必要。エンパワーメントをすることが先。

斉藤補足:
「緑の革命」は、アジア諸国が実施した化学肥料、農薬、種子のパッケージによる主食作物増産努力(主として米)。これによって作物の収量が飛躍的に増加し、対外的には「経済的発展」を遂げたとされている。 GMOの問題は、たとえば、モザンビークの洪水のとき、モンサント社がGMO種子の提供を申し出たが、安全上と、国際社会におけるGM作物の取り扱いについての懸念があったために、受け入れ反対の声が挙がり、提供実施に至らなかった事例が挙げられる。

・AJF 茂住さん

Q:GM作物の問題は生態系への影響が一番大きいのでは?害虫に農薬が効かなくなるのと同じで、GM作物の対病害虫性は長続きしないと聞いた。さらに、GM導入にかかるコストによって、農民の生計が圧迫され、生活が破壊されるという印象もある。これらの2つの点から言っても、自立できない、持続できない農業体系の輸出はやめるべき。

A:EUでもオーストラリアでもコンタミネーション(種子の風散布や、従来種との交配)が大きな問題になっている。GMOの特許がからんだ裁判で農民が敗訴する例もあるので、コンタミネーションが起こらないようにする必要がある。それから、GMOとNon-GMO のCo-existence(共存)(日本が非GM大豆確保のために開発したIP(Identity Preservation)システムもその一つ)が可能かどうか、焦点となっている。GMOを生産したくない者の権利が保障されなければいけない。そのためには、Co-existence Policyを立てる必要がある。EUは国別に法律をつくるというガイドラインを策定している。

・東京農業大学 志和地さん(以前国際熱帯研究所にて勤務)

Q:従来の育種(=品種改良)と技術的には同じ。ただ、異種間交配については、自然界では起こり得ないので、これには研究者としては反対の立場を取っている。
しかし、アフリカで、耐塩性、耐乾燥性といった品種・樹木が栽培できれば、人類の大きな進歩になるのかもしれない。一方で、アフリカのようなところでは、GMOの流通を追跡するためのトレーサビリティが確保されないという問題がある。
また、GMの技術の利点として、育種期間の短縮が上げられているが、実験室レベルから外部環境に移した時のGMO形質発現の確認や環境アセスメントに時間がかかる環境アセスメントの点から考えると、遺伝子組み換えによる育種は、これまで長い時間を要した品種改良技術と比べて、時間の短縮になっていない面もある。

A:オーストラリアでは、環境負荷の少なくなる品種や耐乾燥性、耐塩性のGM品種開発を続けていく姿勢だった。一方で、ブラジルで起こったように、国境を越えてGMが非合法に移動し得る。例えばアフリカでは、GMOを承認している南アから、モザンビークへと広がることも予想される。こういう事態に際して、Regulation Arrangementが重要となってくる。そのために「公、官」が主導する体制を確立する必要がある。また、国際社会全体としての責任も大きい。

・NHKディレクター 谷口さん

Q1:アフリカにGMOが入ってきてしまうことの問題点を、穀物メジャーの狙いと絡めて説明お願いします。

A1:建前としては、援助といえども食料安全保障が犯されることに対する食に対する不安。また、国家として、国民の健康を守るという義務、また説明責任を果たせなくなることに対する不安。トウモロコシは、搾油作物として日本でもGM作物の利用が主流となっているが、アフリカ諸国については、主食として輸入されることへの懸念がある。しかし、本音は別のところにあると言ってよい。アフリカ諸国においては、飢餓も表面化しており、今後、農業は主産業となるべき重要なものである。ここにGMOが導入されてしまったら、Non-GMOが主流となったときに貿易で勝ち残れなくなってしまう恐れがある。

吉田さん補足:
アフリカの飢餓は、先進国の多国籍企業の戦略の一つとなっている。種と農業用品のパッケージ売り。特に、アフリカ諸国内での食料貿易は、非常に重要である。GMOとNon-GMOのCo-Exisitance(共存)が確立していない現状において、消費者の立場は非常に不明確で、このままでは、農民が種子に対する主権を失ってしまう。

Q2:WTOパネルでの、アメリカ対EUの裁決はいつごろ出るのか。また、勝敗の展望は?

A2:難しくて分からない。パネルの結果が出たとしても、それにかかわらず、しばらくはゴタゴタするのではないか。今年の10月に一審の結論が出そうだが、負けた側が上訴するかもしれないので、この裁判の行方は予断できない。

・日大 半澤さん

Q1:日本はカルタヘナ議定書を既に批准したか?また、本議定書はGMO輸出入に関する規定だけか?

A1:共にYES。国家間の移動なら全て適応される。

Q2:補足資料の相関図で、国民の所得が少なく、GMOの受け入れに難色を示しているアフリカ諸国は、意外と早いうちに、GMOを受け入れるようになるのではないか?政府としての「官」による統制能力が低く、民間が主導になっている現状では、アメリカなど、GMOを推進している力の強い国々が、こうした途上国に圧力をかけるようになるのでは。

A2:分からない。皆で議論するためにこの図を作成した。が、一つ言える事は、途上国がGMOの導入に関する法整備を確立するよりも早く、食糧援助物資としてGMOが入り込んでしまうだろうということ。コンタミネーションの問題もあるので、トウモロコシを主食とするアフリカ諸国へは、トウモロコシ自体ではなく、粉にした状態で輸出されることになるだろう。

以上。

P.S.
9月3日に、フォローアップ学習会を開催します。
特に講師を定めず、関連資料の読み合わせを行います。
関心を持たれた方は、AJF事務局、担当・斉藤へ連絡下さい。
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