アフリカ熱帯林の現状と日本との関係

サンガ3か国保護区圏(コンゴ・カメルーン・中央アフリカ)


以下の内容はこちらのPDFファイルを訳したものです。 Congo, Cameroun, RCA - Trinational de la Sangha.pdf

アフリカ
サンガ3か国保護区圏(コンゴ・カメルーン・中央アフリカ)
〈TRINATIONAL DE LA SANGHA ( CONGO, CAMEROUN, REPUBLIQUE CENTREAFRICAINE))
No. 1

( p. 45 )
世界遺産登録への応募  ― 国際自然保護連合〈UICN, Union internatinale pour la conservation da la nature et des resources naturelles〉の技術的評価
サンガ3か国保護区圏(コンゴ・カメルーン・中央アフリカ)
ID No. 1380 Rev

世界遺産委員会へのUICNからの推薦状:自然条件を基準とした遺産の登録
「作業指針」の主要な文節
77 遺産は自然条件を満たしている
78 遺産は「作業指針」に明記されている、手つかずの状態、保護、管理の条件を満たしている

注:委員会第35回会期( 35COM )での評価報告書に記載された理由のため、UICNは原提案の先延ばしを勧告した。委員会はUICNの技術的勧告全体を維持しつつ提案( 35COM 8B.4 )の返送を決定した。調査の一環として、また35COM 8B.4の決定においても、関係諸国からも要請されていたため、UICNはUICN勧告の解釈について関係国へ助言を行った。これは多様な手法でなされたが、とくにアフリカ中央部では幾度も作業部会が開かれた。パリでは、UICN代表者たち(現地の提案の評価者たちと、世界遺産のためのUICNプログラム代表1名)、世界遺産センター代表、提案資料の再検討を任せられた国際顧問1人が会合をもった。このパリ会合の参加者2人は会合の結論を、後にカメルーンで開かれた作業部会で個人的に参加者たちに伝えた。ヤウンデに拠点を置くUICN地域スタッフ1人も、この地域での2回の作業部会の際、UICNを代表して、委員会で検討されたとおりにUICNの助言を伝えた。

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目次
1.参考資料
2.自然特徴の要約
3.他のサイトとの比較
4.手つかずの状態・保護・管理
4.1.保護
4.2 諸境界
4.3 管理
4.4 脅威
5.その他のコメント
5.1地元住民と文化的価値に関する考察
6.基準の適用
7.推薦状

1.参考資料
a)UICNによる提案を受理した日:原提案は2010年3月15日に受理された。第35回会期でこの提案の返送が決定されたのち、修正案は2012年2月28日に受理された。

b)正式に請求されたのち、関係国によって提出された追加諸情報:原提案への追加諸情報が、2011年1月4日に関係諸国に請求された。コンゴ共和国は請求された情報を2011年2月24日に3関係国の名で提出した。UICNはこれらの情報を考慮しながら2011年の評価と、2012年のこの評価報告書を作成した。

c)参照文献:
Cassidy R., Watkins B., Cassidy T., (2010) First record of Rey-necked Picathartes oreas for Central African Republic. Bull ABC 17 (2) : 216-217.
Endamana D., Klintuni Boedhihartono A., Bokoto B., Defo L., Eyebe A., Ndikumagenge C., Nzooh Z., Ruiz-Perez M., Sayer J. A. (2010) A framework for assessing conservation and development in a Congo Basin forest landscape. Trop. Conserv. Sci. 3 (3): 262-281.
Kirtley, A., Gontero, D. (2010). Forests, Development, and Dignity for the BaAka A Needs Assessment of the BaAka Pygmy Population living in the Dzanga Sangha Complex of the Central African Republic. Submitted to Sacharuna Foundation.
Sandker M., Campbell B. M., Nzooh Z., Sunderland T., Amougou V., Defo L., Sayer J. A. (2009). Exploring the effectiveness of integrated conservation and development interventions in a Central African forest landscape. Biodivers. Conserv.
UNESCO (2010) Le patrimoine mondial dans le bassin du Congo. Unesco Paris : 63 p.
White, L., J. P. Vande weghe (2009). Patrimoine mondial naturel d'Afrique centrale: Bien existants - Bien potentiels. Rapport de l'atelier de Brazzaville du 12-14 mars 2008 UNESCO Centre du Patrimoine Mondial Paris France.
Yanggen, D., Angu, K., Tchamou, N. (2010) Conservation a l'echelle du Paysage dans le Bassin du Congo : Lecons tirees du Programme retional pour l'environnement en Afrique centrale (CARPE). IUCN / USAID.

d)専門家への諮問:5人の独立査定人に意見を求めた。2010年の訪問についてはUICN代表2人に意見を求めた。

e)提案された遺産への訪問:2010年11月に、ジェラール・コラン〈Gerard Collin〉とシャルル・ドゥマンジュ〈Charles Doumenge〉が原提案を評価した。

f)UICNが報告書を承認した日付:2012年4月。
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( p. 46 )
2.自然特徴の要約

サンガ3か国保護区圏(以下TNS)は、自然保護のために設けられた、国境をまたいだ複合的な区域である。これはコンゴ盆地西北部に位置しカメルーン共和国、コンゴ共和国、中央アフリカ共和国が国境を接している地点にある。TNSは全面積754.286ヘクタールの隣接しあう3つの国立公園を包含している。3つの国立公園とは、カメルーンのロベケ〈 Lobeke 〉国立公園、コンゴのヌアバレ・ンドキ〈 Nouabale-Ndoki〉国立公園、中央アフリカ共和国のザンガ・ンドキ〈 Dzanga-Ndoki 〉国立公園である。最後のザンガ・ンドキは2つの別個の区域からなる。以上の公園は、ときに「3か国にまたがるサンガの景観」と呼ばれるものよりもずっと広大な森林景観に埋め込まれている。委員会第35回会期で参照された原提案と比較すると、緩衝地域〈 zone tampon 〉は400ヘクタールから1,787.950ヘクタールへといちじるしく増大したからである。

TNSの自然の価値と特性のひとつは、基本的に手つかずの森林景観のなかで、多様なレベルで進行する生態系の健全な機能と進化過程である。落葉樹と常緑樹からなる熱帯林や、沼沢林・定期的に水没する森林・自然保護にはとても重要なさまざまなタイプの林間湿地性草原〈clairieres forestieres〉を含むさまざまなタイプの湿地といった数多くの多様な生息環境が景観全体のレベルでつながりあっており、完ぺきに組み合わされた、大型の捕食動物と貴重種と絶滅危惧種〈especes rares et en danger〉を含む動植物相の個体群の生存を可能にしつづけている。傑出した生物多様性の発展と維持に大きな役割をはたしてきたのは、【この森林の】規模の大きさ、コンゴ盆地領域と低ギニアの植物相領域との結合という生物・地理学的な立地条件、人間活動による影響の少なさ、という要素である。コンゴ盆地の他のサイトとは異なり、TNSには低地に広大な熱帯林があり、そこは生態学的にも機能的にも手つかずである。これらの森林は商業的伐採をこうむったことは一度もなく、生態学的に重要な哺乳類と鳥類が狩猟や過剰な密猟によって姿を消したこともない。TNSの30%は、20世紀後半に卓抜方式による熱帯林伐採の対象になったと推測される。それ以降は生態学的計画に基づき、貴重な二次森林の再生を助長するため、あらゆる伐採が停止された。人間が暮らしていたのは遠い昔のことである。半遊牧民で、狩猟・採集・漁労で生計を立てていた先住民による影響は限定的で、人口密度はきわめて低い状態で保たれつづけている。

サンガ川はコンゴ盆地の主要な水系で、TNSを北から南へ横切る。コンゴ河の大きな支流で、実際、静かな流れのサンガ川には、ナイルワニ(Crocodylus niloticus)と大型の捕食魚タイガー・フィッシュ(Hydrocynus goliath)がいまだ生息している。

提案された遺産と景観全般には、水性土壌にできた、きわめて多様な自然の林間湿地性草原〈clairieres forestieres〉のネットワークがある。これらの湿地性草原は大ざっぱに分けると、地元で「バイ〈bais〉」と呼ばれる水流沿いの湿地性草原と、同じく「ヤンガ〈yangas〉」と呼ばれる陥没地からなる。これらの土地は多くの野生動物種のミネラル摂取の場として重要な役割を果たしていることが知られている。提案された遺産と緩衝地域では、138個の湿地性草原の存在があきらかになっているが、その多くについてはこれから資料を集めて研究する必要がある。規模、土壌、水理学的条件の変異しやすさや、種子拡散のメカニズムが、生息環境と種の組み合わせの多様性をもたらしてきたのである。湿地性草原は植生が多種に及ぶだけでなく、ひじょうに多様な動物種も引きよせる。森林という母体全体の中で湿地性草原は、哺乳類と鳥類を含む多様な分類学上のグループのため、重要な生態学的役割を果たしている。湿地性草原を定期的に訪れる種には、マルミミゾウ、ゴリラ、チンパンジー、そしてシタツンガやボンゴ〈bongo emblematique〉のような多種のアンティロープ、さまざまな野生イノシシ〈suides sauvages 〉がいる。

これらの湿地性草原は生態学的に重要なだけではなく、いままでなかったような科学的観察や観光向け観察を提供できる。これは低地の熱帯雨林の大多数では未知の可能性である。ここには湿地性草原の他に多くの湖があり、それらも野生動物にとっては重要である。だがここで指摘すべき点は、多くの湿地性草原と湖は提案された遺産の外側にあるということだ。それらはとくにコンゴの熱帯林区域つまり提案された遺産の南部にある。自然保護の観点から重要なことは、これらを緩衝地域に統合することと、熱帯林伐採区で検討されている保護を行うことである。

TNSの生物多様性は、アフリカ多湿熱帯林の生態系がもつあらゆる特徴〈l'ensemble du spectre des ecosystemes〉を併せ持っている。だが植物相は湿地性草原でしか見られない草本種によっていっそう豊かなものになっている。またサンガ回廊地帯では、固有の種や亜種が同定されていて、とくに提案された遺産で同定されたのは、サンガ森林のコマドリ(Stiphrornis sanghensis)である。おそらく将来の調査によって、とりわけ節足動物の新種が発見されるだろう。TNSはまた、乱伐されている多くの種類の樹木を保護している。それらはとくに、危急種〈especes vulnerables〉 である多種のセンダン科〈Meliaceae〉樹木や、近絶滅種〈especes en danger critique d'extinction〉であるアカテツ〈Autranella congolensis 〉 である。

マルミミゾウ(Loxodonta africana cyclotis)はかなり数が多く、健全な状態にある。オスには長い牙があり、雌雄間の数のバランスがとれている。2種の類人猿、つまりニシローランド・ゴリラ〈gorille de plaine de l'Ouest〉(近絶滅種)とチンパンジー(絶滅危惧種)は提案された遺産の内側と周囲ではかなり数が多く、ここは世界で最も生息密度が高い土地の1つと考えられる。またこれらの種のなかには、人間と一度も遭遇したことがない個体もいると推察される。

( p. 47 ) 指摘しておくべきは、樹上生活をする小型霊長類のいくつかの種のように、サンガ川の一方の岸にしか生息していない種もいるということである。またニシローランド・ゴリラのように、河のどちらの岸に生息するかによって行動が異なる種もある。ということはTNSの多様性全体を保護するには、景観全体での管理と保護がますます必要ということだ。
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3.他のサイトとの比較

サンガ3か国保護区圏の登録は自然基準(ix)と基準(x)にもとづいて提案された。この提案には完ぺきな分析が添えられている。それはTNSの規模、選択された数種の数と生息密度、種の多様性(植物・哺乳類・鳥類)、生息環境と野生種集合体の多様性という面から、TNSをギニア‐コンゴ森林、中央アフリカ森林地域、さらには世界中の大規模熱帯林地域とともに展望した分析である。この比較分析には、ユネスコ、国連環境計画の世界自然保護モニタリングセンター〈WCMC〉、国連自然保護連合〈UICN〉の膨大なデータが使用されている。

比較分析の結果が示しているのは、TNSは規模の大きさと周囲からの隔絶性のおかげで、甚大な被害を出すエボラ出血熱からは現時点までは守られてきており、赤道アフリカ西部の大型サル保護にはひじょうに重要だということだ。TNSには4,000頭以上、あるいはおそらく8,000頭以上のニシローランド・ゴリラとチンパンジー、そして少なくとも4,000頭のマルミミゾウが生息している。すでに他の2つの優先サイトであるジャ保護複合圏〈Complexe de conservation du Dja〉とロぺ国立公園〈PNL:Parc national de la Lope〉が世界遺産リストに登録されているとはいえ、TNSはマルミミゾウを含めた別の種のために残された希少な大規模優先サイトの1つである。TNSはPNLよりも大きく、ずっと多くの霊長類が暮らしている。またジャ保護複合圏よりも広大なTNSは、他の種のためにもより重要である。

TNSはサロンガ国立公園〈Parc natonal de la Salonga〉あるいはコンゴ民主共和国のオカピ動物相保護区〈Reserve de faune a okapis〉ほど大きくはないが、ヴィルンガ国立公園〈Parc nationa des Virunga〉と同じくらいの大きさである。カフジ-ビエガ国立公園〈Parc national de Kahuzi-Biega〉(コンゴ民主共和国)・ロぺ-オカンダ生態系・文化遺物景観〈Ecosysteme et Paysage culturel relique de Lope-Okanda〉(ガボン)・ジャ動物相保護区〈Reserve de faune du Dja〉(カメルーン)よりは大きい。さらに、提案された遺産を構成する3つの国立公園の周囲に広大な緩衝地域を付け加えたこと、この区域内での熱帯林伐採行為改善に恒常的に努めていることは、提案された遺産の外側の広い地域にわたる大規模な自然保護と管理の改善に大きく貢献するだろう。これは世界遺産になっている別の地域と比べてTNSが卓越している点である。

世界遺産の別の地域はたしかにより高い多様性を有しているが、規模の大きさ、手つかずの土地の広さ、相対的な孤立性、・自然の無傷の状態・さまざまなタイプの湿地性草原を擁する生息環境の多様性の高さ・いまだ大部分は森林に覆われた景観は、TNSの無比の普遍的価値を立証している。これほどに数多くの価値の組み合わせと規模、数多くの現象は他に例をみない。

TNSの価値と手つかずの自然特徴のいくつかは、TNS【の周囲の】より広大な森林景観のおかげで存在することはあきらかだ。ということはTNSの将来もみずからを取り巻く環境の運命にかかっているということだ。より具体的には、【熱帯林の】資源の保全と利用のバランスにかかっているということだ。とくに地元住民の生業維持に配慮すること、熱帯林の商業的伐採を効果的にコントロールすることが重要だ。
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4.手つかずの状態・保護・管理
 4.1.保護

提案された遺産は国家に帰属する3つの国立公園を擁している。それらはカメルーンのロベケ国立公園、コンゴ共和国のヌアバレ・ンドキ国立公園、中央アフリカ共和国のザンガ・ンドキ国立公園である。漁民の小さな共同体が1つある以外、ここで恒常的に暮らしている人々はいないようである。

ロベケ国立公園は2001年に設立され、面積は217.854ヘクタールである。ここでは狩猟、漁業、森林産物の採集、鉱山開発、熱帯林伐採は禁止されているが、一部、地元共同体が漁業と樹木以外の森林産物採取を許可されている地区が公園西部に設けられている。

ザンガ・ンドキ国立公園はこの地域の最初の公式保護区として1990年に創設された。この公園は2つの異なる区域からなる。それは北部の49.5ヘクタールのザンガと、南部72.5ヘクタールのンドキで、合わせて122ヘクタールである。2つの区域は、同年に設立された335.9ヘクタールのザンガ・サンガ密林特別保護区〈Reserve speciale de foret dense de Dzanga-Sangha〉につながっている。2キロ幅の「風致保護地区〈preparc〉」がザンガとンドキの緩衝地域の役割を果たしている。ザンガとンドキの2つの区域は、となりのコンゴ共和国内にあり、隣接するヌアバレ・ンドキ国立公園にもつながっている。

ザンガ・ンドキ国立公園は、国内森林に関する規定を定めた1990年制定の「森林法」によって設立された。【公園内では】鉱山開発・熱帯林伐採とともに狩猟・採集・漁業が禁止されている。これに対して、公的に緩衝地域とされているザンガ・サンガ密林特別保護区は多種の用途にあてることができる。地域全体の動物相と生態系の保護だけでなく、地元住民の必要を満たすことも緩衝地域設置目的に含まれているのだ。ザンガ・サンガ密林特別保護区は5つのゾーンに分割されている。すなわち狩猟(商業狩猟)用ゾーン、地元共同体の狩猟ゾーン、熱帯林伐採ゾーン、農村開発ゾーン、ブッシュミート産出ゾーンである。

(p. 48) 1993年に創設されたヌアバレ・ンドキ国立公園は、面積386.592ヘクタールである。2002年には、かつての熱帯林伐採区(森林整備区〈Unite Forestiere d'Amenagement〉あるいはUFA)、すなわち今日ではグアルゴ三角地帯〈Triangle de Goualougo〉の名で知られる区域の一部19.863ヘクタールを付け加えて完成した。この公園は2000年制定の「森林法」と、全保護区に関する2008年制定の「動物相法」に基づいて管理されている。

2000年にアフリカ中央部諸国で、森林担当大臣会議の第1回会合が開かれた。会議はそれ以来、アフリカ中央部森林委員会(COMIFAC)〈Commission des forets d'Afrique centrale〉となった。この会合の際、カメルーン共和国・中央アフリカ共和国・コンゴ共和国の大臣はTNS設立の協力協定に署名した。ここには3つの国立公園を保護し、合議のうえで管理し、調査作業を行う意思が表明されている。協定はまた持続的発展・観光・密猟対策にも言及している。TNSの資金調達のため、そして景観の持続的利用のため、2007年に「サンガ3か国保護区圏のための基金」が創設された。

TNSのための国境をまたぐ複合圏の設立と基金の立ち上げは建設的な結果をもたらし、TNSに堅固な基盤をあたえた。より最近の出来事としては、関係3か国が35COM 8B.4委員会決定に対する回答として、隣接地域の170万ヘクタール以上を公式な緩衝地域にする発表をしたことがあげられる。それらの土地の多くは熱帯林伐採区にある。こうした熱帯林伐採区の大部分では、品質保証プログラムの一環として、社会・環境問題が考慮されている。

さまざまな挑戦を受けているものの、全般的にTNSはこの地域の国境をまたいだ協力と自然保護にかんして、希望が持てる一例である。提案されたこの遺産の保護状態は適切である。UICNの先の評価で表明された、景観全体について、そして景観と提案された遺産の関係についての懸念は、広大な緩衝地域が定められたことによって公式には解決された。

UICNは、提案された遺産の保護状態は「作業指針」に述べられているすべての条件を満たしているとみなす。
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4.2 諸境界

提案された遺産の境界は、3つの国立公園の法的境界である。ロベケ国立公園の場合、水流あるいは踏みならされた道をたどったところが境界である。ヌアバレ・ンドキ国立公園とザンガ・ンドキ国立公園については、場合によって行政的あるいは地理的境界が使われている。

原提案では、提案された遺産のための公式の緩衝地域は中央アフリカでのみ示されていて、それはすなわちザンガ・サンガ密林特別保護区だった。他の2か国では提案された遺産は、熱帯林伐採を規制しはじめ、さらに森林管理協議会(FSC)〈Forest Stewardship Council〉 が定めた社会的規範を含む規範に完全に従っている区域に隣接している。これらの区域は、提案された遺産の長期的完全保存や、自然保護の有効性にとってはきわめて重要なのに、この遺産のための緩衝地域としては公式に提案されてはいなかった。以来この点が再考され、今では提案された遺産全体が3か国の広大な緩衝地域に囲まれている。UICNの見解では、提案された遺産とその周囲の環境を結ぶ緊密な関係がきわめて積極的に認知された点が重要だ。これらの変更が、TNSの景観全体において土地利用を計画化する際に、そして地元住民と先住民の生活上の必要について取り決めを行う際に1つの枠組みを提供することが望ましい。UICNはまた、提案に言及されているいくつかの重要な価値あるもの、たとえば林間に自然にできた湿地性草原や、一体化した湿地帯などは、部分的に隣接区域にも存在し、それらは景観の包括的価値保全に役立つと指摘する。

UICNは先に出した結論に従って、さまざまな国立公園に隣接する区域を公式の緩衝地域に統合したことは大きな理念的改善とみなしている。世界遺産になる可能性があるこの土地の手つかずの状態は、森林地区の木材伐採が、提案された遺産の自然的・文化的価値を脅かさず、地元住民と先住民の生業も危険にさらさない限り、ますます完全なままに守られることだろう。

UICNは、提案された遺産の境界は「作業指針」に示された条件を満たすとみなす。
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4.3 管理

3つの公園には各国政府と国際協力諸機関によって派遣された、または資金提供された管理・行政スタッフがいる。ロベケ国立公園には約40人の常駐スタッフがいて、そこにはDjengiプロジェクト(World Wildlife Fund (WWF)とドイツの開発機構GIZ )との協定の一環で派遣された複数の技術者と自然科学者が含まれている。ザンガ・ンドキ国立公園には148人の職員が常駐し、そのうち中央アフリカ政府から給与を支払われているのは10人だけだ。他に10人が観光収入から給与を支払われており、残りはWWFによって支払われている。ヌアバレ・ンドキ国立公園には18人の職員が常駐し、そのうち12人が「エコ監視員〈ecogarde〉」である。野生生物保護協会プログラム・コンゴ〈Programme WCS Congo〉は技術職員と自然科学者約50人に給与を支払っている。つまりTNSの管理にさまざまなレベルで参加しているスタッフは約300人である。

( p. 49 ) 国立公園に割かれる各国の予算は少なく、TNSの総予算の中ではわずかな割合しか占めていない。残りは国際協力機関とTNS近隣の開発施業権者〈concessionnaires〉が賄っている。後者が支払うのは、「エコ監視員」の報酬で、彼らの活動には密猟対策も含まれている。外部からの支援へのこうした高い依存度は、能力向上、各国政府からの予算割当の増額、自然保護のための新たな形式の融資によって徐々に減ることが望ましい。

2007年に設立された「TNSのための基金」は、イギリスの法に従って設立された私的な基金で、本部はアフリカ中央部(カメルーン) に置かれている。この基金は、カメルーン共和国、コンゴ共和国、中央アフリカ共和国、WWF、野生生物保護協会〈WCS :Wildlife Conservation Society〉、熱帯雨林基金〈Rainforest Foundation〉、ドイツ復興金融公庫〈KfW〉銀行グループ、フランス開発庁〈AFD :Agence Francaise de developpement〉(オブザーバー)、公園管理者、市民団体を代表する11人の委員からなる評議会によって運営されている。これは【TNSの】自然保護のための信託基金として創設され、多様な寄付者たちの貢献によって長期的に資金を確保することを目的としている。現在資産は約2,000万ユーロで、出資しているのはとくにKfW、フランス開発庁、ドイツのあるビール醸造業者が設立した財団レーゲンヴァルト・シュティフシング〈Regenwald Stiftung〉である。資産目標は3,500万ユーロである。年間推定4パーセントの収益を出すこの基金は固定費用を賄うはずである。基金には関係3か国を代表する4つの部局があり、4つめは国境を越えた努力のために設置された特別な部局である。基金はこの遺産にとっては、観光収入を除いてもっとも重要な資金源である。

調査作業そして管理と自然保護の努力は国境をまたいでよく調整されている。省庁レベルで3か国を結集させる「調査・行動3か国委員会〈Comite Tri-national de Suivi et d'Action〉」が置かれているのだ。地方行政レベルでは「3か国調査委員会」が3か国を束ねている。

3か国定期会合が管理・実践レベル(「3か国計画・実行委員会〈Comite Tri-national de Planification et d'Execution〉」)と、公園管理者間で開かれる。「自然科学者委員会〈CST :Comite scientifique〉」も創設されたが、これはまだ完全には機能していない。

これらすべての努力は称賛に値し、国境を越えた複雑な状況での3か国のコミュニケーションと協力のために実践的で有望な枠組みを提供している。すでに創設されている自然科学者委員会が軌道にのれば、遺産全体の管理がその恩恵を受けられるはずである。

3つの公園は国際機関とNGOの支援を受けながら、【地元の】共同体の社会経済的課題に関心を向けている。保護地域の行政は学校建設や井戸の設置に参加している。先住民向けも含めて、識字プログラムも作成され、地元農家には支援が提供されている。

公園管理上のいくつかの方策においては、バカ人のような先住民の生活手段がある程度考慮される。しかし公園創設によって、地元住民はそれまで使っていた土地と資源から締め出されたことは明らかである。【それでも】保護区にある資源を使ってきた地元住民のための方策もある。ロベケ国立公園(カメルーン)には、【地元住民の】使用にあてられた地区がいくつかある。中央アフリカでは、緩衝地域での地元住民による資源利用が許可されている。これには先住民による狩猟・採集も含まれる。コンゴの場合は、熱帯林伐採区の中に共同体の狩猟地区が指定されてきた。緩衝地域がひじょうに広大になったおかげで、世界遺産の枠組み内で地元住民と先住民の生業維持のための必要により真剣に向き合う好機が到来した。つまり、この提案によって【TNSが】世界遺産に登録されれば、それをはずみに関係諸国は地元住民・先住民の権利の承認に関するさまざまな約束を実行するはずだからだ。UICNはこの地域が世界遺産とし登録されるなら、以上のことは遺産の保護・管理のために期待される明確で重要な事項として、そして世界遺産委員会がより深い関心を向ける課題として指摘されるべきだと考える。

緩衝地域での活動指針により積極的に取り組むため、公園管理者にはもっと強い権限を与えるべきだろう。これらの緩衝地域が、提案された遺産の手つかずの状態を維持し、さらに強化する決め手であることは疑いない。また、この提案に関係するすべての国の間で法的取り組みと規制を調和させ、先住民が伝統的方法で資源を利用できるようにする必要もある。緩衝地域の区分方法や管理計画については、地元での野生種管理と資源利用の知識を活用する必要があることも考慮すべきである。

(p. 50) 【TNSは】孤立した状態にあり、インフラ設備が限られているため、観光発展にはいくらかの限界がある。ロベケ国立公園のマンベレ〈Mambele〉、ザンガ・ンドキ国立公園のサンガ・ロッジ〈Sangha Lodge〉、ヌアバレ・ンドキ国立公園のボマサ〈Bomassa〉とベリ〈Mbeli〉にあるように、訪問者受け入れ用の「ロッジ」やインフラ設備もいくつかは整っている。もっともよく知られている湿地性草原のなかには、ガイド付きの訪問を提供しているところもある。(中央アフリカ共和国のサンガ・バイ〈Sangha Bai〉、コンゴ共和国のベリ・バイ〈Mbeli Bai〉、カメルーンのボロ・バイ〈Bolo Bai〉)

これほどに孤立した地帯では、観光用インフラ設備を発展させることは、訪問者が非常に少ない現状への対処としては適切と思われる。中期的には、すべてセットになった観光計画をTNSが立てることが有用であろう。

全体的には自然資源管理の取り組みは建設的に進展していると思われる。提案の中では広大な緩衝地域設定が表明され、公園管理のうえでは地元住民と先住民の生業維持という課題も包括的に考慮すべきだと明確に認められている。

UICNは、提案された遺産の管理は「作業指針」で示された条件を満たすとみなす。
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 4.4 脅威

熱帯林伐採とその二次的影響
提案された遺産においては、不法な熱帯林伐採は大きな問題となってはいないように思われる。その点ではこれらの公園の展望は明るいようだ。地元住民の活動、遠隔地であること、移動コストの高さ、商業化できる種が希少で、ひじょうに高度な卓抜方式伐採になることなどを考え合わせると、熱帯林伐採そのものは森林破壊あるいは重大な森林損壊をもたらさないはずである。景観全体に関しては、伐採は大きな影響を与えない。なぜなら提案されている遺産はほとんど全面的に、長期契約にもとづいて認められた【熱帯林伐採】区域に囲まれているからだ。ただ【中央アフリカ共和国の】ザンガ・サンガ密林特別保護区だけは目下のところまだそのような区域を割り当てられていない。高度な卓抜方式の伐採が行われ、森林管理協議会〈FSC〉の規定に従って森林管理規範がますます厳しくなることは、積極的な進展である。熱帯林伐採区のかなりの地域が公式に「緩衝地域」に指定されているので、伐採区と公園管理者の緊密な調整が期待される。

しかしながら懸念されるのは、他にアクセスの方法がない地域に熱帯林伐採のための道路が設置されたとき、引き起こされる二次的作用である。こうした「開かれた扉」の作用についてはよく語られている。アフリカ中央部でしばしばみられるのは、インフォーマルな施設の建設、小規模な鉱山開発、ブッシュミートと象牙を得るための密猟が引き起こす影響である。それを食い止めるには政治的意思と開発施業権者の全面的協力が必要である。密猟対策へのしっかりとした取り組みを促すべきである。自然保護専門家たちは森林区域の将来に対するみずからの影響力を増大させるため、提案されている遺産の周囲を緩衝地域とする宣言を活用するべきである。

狩猟・密猟・漁労
地元住民による狩猟は、TNS景観内の資源の伝統的・合法的な利用である。【地元】共同体用の狩猟保護区〈reserves de chasse〉のいくつかは提案された遺産の外側に設けられていた。独立の査定人の何人かは、共同体用の狩猟保護区の構想と管理には改善の余地があるとしている。

ブッシュミートそして/あるいは狩の戦利品を得るための商業的密猟が過剰に行われたなら、それはTNSにとってまさに重大な脅威となりうる。象牙を得るための密猟は、関係諸国間の国境の両側で成功している密猟対策の努力にもかかわらず、大きな懸念事項でありつづけている。密猟防止のための断固とした行動と、許可された狩猟の間のバランスのとり方はいまだ重要課題だが、それは住民の生業維持、【住民の】関係〈relation〉、法適用の努力、投資、国境を越えた調整、【TNSの】手つかずの状態【の保全】、公的な自然保護を地元住民が認め、受け入れるかどうかとかかわりあっている。

商業狩猟あるいは「サファリ」は、提案された緩衝地域の多くの区域で合法的に行うことが可能だし、すでにいくつかの場所では行われている。こうした活動が収入と雇用を創出し、地元共同体に恩恵をもたらすことは重要だ。スポーツ狩猟の潜在力は、自然保護のための財政手段として活用できるだろう。【だが商業的】狩猟は、捕食動物あるいは大型哺乳類のような生態学的に重要な種へのインパクトを予測する調査も伴っているべきだ。

生活の糧を得るための漁労は、いまのところ自然保護上の大きな問題にはなっていないようだ。

農業 家畜飼育を含む小規模な農業は、この地方の村落周辺で広く行われている。しかし提案された遺産の中では行われていない。ゾウやゴリラのような野生動物が耕作地にもたらす損害は人間と野生動物の衝突を引き起こしやすく、そのことは公園職員と地元住民の関係に、そしてじつのところ自然保護そのものに対する地元住民の受け止めに悪影響を及ぼしつづけるだろう。この問題に対処するため、緩和措置や補償を講じるべきであろう。

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鉱山開発
提案されている遺産を構成する公園内での鉱山開発は知られていない。しかし緩衝地域に提案されているザンガ・サンガ密林特別保護区の北部地域では、ダイヤモンドの小規模な違法開発が拡大している。また公園内でもときに開発が行われる。公園からもっとも近い鉱山活動は、ザンガ・ンドキ国立公園の北部地域から5キロしか離れていないところで行われている。これについては調査がされるべきだし、もし必要なら断固とした行動をとり、ザンガ・サンガ密林特別保護区内での違法な鉱山開発を段階的になくし、ザンガ・ンドキ国立公園内に違法鉱山開発が拡大しないようにするべきだ。改訂された提案資料では緩衝地域はずっと広大になってはいるが、さまざまな地点での鉱山開発活動が見られる。将来的には公園管理側は、これらの問題に他の部門と連携して取り組まなければならないだろう。

感染症
提案された遺産内ではエボラ出血熱が報告されたことはない。しかしこれは、とくにニシローランド・ゴリラの個体群にとっては脅威となる可能性がある。したがって遺産管理においては観光運営に際してのリスク予防と安全対策への配慮がたいへん重要である。

まとめとしてUICNは、提案された遺産は「作業指針」に述べられた手つかずの状態に関する諸条件を満たしているとみなす。
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5.その他のコメント
5.1地元住民と文化的価値に関する考察

UICNは前回の評価において、提案された遺産は豊かな文化的遺産と一体になっていると指摘しておいた。改訂された提案は地元住民と先住民を前回よりずっと詳細に考慮しているとはいえ、前回評価がすでに強調したように、提案は遺産の文化的側面に真剣に向き合っていない。UICNはまた、提案に関する他の諮問措置を追求したが、現地調査はできなかった。その上UICNは、関係国の1つにおいて、諮問のオブザーバーの1人からの、この提案に関するコメントを受け取った。それによると諮問は適切ではなく、実行時期も遅く、新しい提案の承認のときになってやっとなされたというのだ。この遺産には世界遺産リストへの登録の可能性があるのだから、世界遺産委員会は関係諸国ともっと突っ込んでこの問題に取り組めるだろうとUICNは考える。つまりUICNは、この遺産が世界遺産リストに登録されたら、これらの問題がより厳しく、より立ち入ったかたちで検討されるとともに、提案された遺産を構成する保護区で伝統的な生活を営む住民の権利が守られると考える。したがってUICNは、世界遺産委員会決定の中でこれらの問題が特別にコメントされるよう求める。UICNとしては、改訂された提案で広大な緩衝地域の統合が示されたおかげで、地元住民と先住民の生業維持、および【遺産の保護】計画や諸決定へのかれらの参加促進が配慮されたうえでの景観全体の自然資源管理にまたとない基盤が与えられたと考える。
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6.基準の適用

サンガ3か国保護区圏(TNS)は、基準(ix)と基準(x)にもとづいて提案された。関係諸国は、最初の提案で検討された基準(vii)は援用しないことを決定した。

基準(ix):生態学的プロセス この遺産の特徴は、ひじょうに広い緩衝地域に囲まれ、面積が広大なこと、かなり長期間それほど重大な破壊が起きなかったこと、手つかずの環境のおかげで生態系が大規模に健全に機能し、進化の過程〈processus ecologiques et evolutionnaires〉も継続できたことである。野生生物とくに大型捕食動物と大型哺乳類の個体が、自然に生存し続けられる数だけいることは注目すべきである。これらは別の場所では、しばしば狩猟や密猟の被害を受けているからだ。この遺産は、とても多様な生息環境が全体にわたってつながりあったモザイク状になっている。それらの生息環境には、生態学的に重要な多種の湿地性草原が含まれ、これらは野生動物の多くの群れを引きつけている。またこれらの湿地性草原では、森林にはない数多くの植物種をみつけることができる。他の多くの森林保護区〈aires progetees forestieres〉と異なり、ここはかろうじて遺された熱帯林として保護されるのではない。ここはより広大で手つかずの景観の一部でありつづけており、自然保護について明るい展望を示している。これは世界レベルではますます貴重で重要なことである。

UICNは、提案された遺産はこの基準を満たしているとみなす。

基準(x):生物多様性と絶滅寸前の種 遺産はアフリカ中央部、コンゴ盆地の豊かな種に恵まれた熱帯湿林の特徴をすべてそなえている。その植物相は、多様なタイプの湿地性草原だけでしか見られない草本種のおかげで豊かなものとなっている。サンガ3か国保護区圏(TNS)は多種の樹木も保護している。守られているのは他の場所では商業用にかなり伐採されてしまった樹木で、たとえば近絶滅種のムクルング〈mukulungu〉、そして「黒檀」の名で商業化され、絶滅の危機に瀕している複数の種である。またこの遺産は、危機に瀕している複数の動物種を保護している。つまり、これからも生存しつづけられるだけの森林ゾウの個体群がいるし、近絶滅種のニシローランド・ゴリラの多数の個体群もいる。遺産内とその周辺では絶滅危惧種のチンパンジーをみつけられる。シタツンガやボンゴ〈bongo emblematique〉のような複数種のアンティロープも見られる。

UICNは、提案された遺産はこの基準を満たしているとみなす。
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7.推薦状

UICNは、世界遺産委員会が以下の決議案を採用するよう推薦する。

世界遺産委員会は、

1.資料WHC-12/36.COM/8BとWHC-12/36.COM/INF.8B2を検討したのち、

2.サンガ3か国保護区圏(コンゴ共和国・カメルーン・中央アフリカ共和国)を自然基準(ix)と基準(x)にもとづいて世界遺産リストに登録し、

3.以下の「卓越した普遍的価値宣言」を採択する。

簡潔な総論
サンガ3か国保護区圏(TNS)は自然保護に貢献するために設けられた、国境を越えた複合圏である。これはコンゴ盆地西北部にあり、カメルーン共和国、コンゴ共和国、中央アフリカ共和国の国境が接する地点に位置する。TNSは隣接する3国立公園を包含し、それらの面積は法定で746.309ヘクタールである。これらの公園とは、カメルーンのロベケ国立公園、コンゴ共和国のヌアバレ・ンドキ国立公園、中央アフリカ共和国のザンガ・ンドキ国立公園である。最後にあげた国立公園は2つの別個の区域からなる。これらの公園は、ときに「3か国にまたがるサンガの景観」と呼ばれるものよりもずっと広大な森林景観の中に埋め込まれている。この遺産の将来にそなえ、景観全体の重要性とその生息動植物に配慮して、1,787.950ヘクタールの緩衝地域が設置された。この緩衝地域には中央アフリカ共和国のザンガ・サンガ森林保護区〈Reserve forestiere de Dzanga-Sanga〉が含まれ、これはザンガ・ンドキ国立公園の2つの区域をつないでいる。

TNSの自然の価値と特徴のひとつは、基本的に手つかずの森林景観の中でひじょうに大規模に進行する生態系の健全な機能と進化過程である。落葉樹と常緑樹からなる熱帯林や、さまざまなタイプの湿地とくに沼沢林、定期的に水没する森林、【TNSの】保護にはとても重要な多種の湿地性草原のような、数多くのさまざまな生息環境が景観【全体の】レベルでつながりあっているのである。このような生態系のモザイクは、あらゆる動植物相を寄せ集め、生存を可能にしている。そこにはマルミミゾウ、ゴリラ、チンパンジー、そしてシタツンガやボンゴといった複数種のアンティロープのような、大型の捕食動物、貴重種、絶滅危惧種が含まれる。

諸基準
基準(ix)
この遺産の特徴は、ひじょうに広い緩衝地域に伴われて、面積が広大なこと、かなり長期間それほど重大な破壊が起きなかったこと、手つかずの環境のおかげで大規模に生態系が健全に機能し、進化の過程も継続できたことである。野生生物とくに大型捕食動物と大型哺乳類の個体が、自然に生存しつづけられる数だけいることは注目すべきである。これらは別の場所では、しばしば狩猟や密猟の被害を受けているからだ。この遺産は、とても多様な生息環境が全体にわたってつながりあったモザイク状である。それらの生息環境には、生態学的に重要な多種の湿地性草原が含まれ、それらは野生動物の多くの群れを引きつけている。またこれらの湿地性草原では、森林にはない数多くの植物種をみつけることができる。他の多くの森林保護区と異なり、ここはかろうじて遺された熱帯林として保護されるのではない。ここはより広大で手つかずの景観の一部でありつづけており、自然保護について明るい展望を示している。これは世界レベルではますます貴重で重要なことである。

基準(x)
この遺産はアフリカ中央部、コンゴ盆地の豊かな種に恵まれた熱帯湿林の特徴の総体を示している。その植物相は、多様なタイプの湿地性草原でしか見られない草本種のおかげで豊かである。ここは多種の樹木も保護している。それらは他の場所では商業用にかなり伐採されてしまった樹木で、たとえば近絶滅種のムクルングである。また遺産内と周辺両方に、これからも生存を続けられるだけの数のマルミミゾウ、近絶滅種のニシローランド・ゴリラ、絶滅危惧種のチンパンジーがいる。シタツンガやボンゴのような複数種のアンティロープも見られる。

この遺産は中部アフリカ、コンゴ盆地の豊かな種に恵まれた熱帯湿林の特徴をすべてそなえており、絶滅の危機に瀕した一連の種を保護している。その植物相は、多様なタイプの林間空地だけで見られる草本種のおかげで豊かなものとなっている。ここは多種の樹木も保護している。それらは他の場所では商業用にかなり伐採されてしまった樹木で、たとえば近絶滅種のムクルング〈mukulungu〉である。そこにはまた、これからも生存できるだけの森林ゾウの個体群と、近絶滅種のニシローランド・ゴリラの多数の個体群がいるし、遺産内とその周辺では絶滅危惧種のチンパンジー、シタツンガやボンゴのような複数種のアンティロープを見ることもある。

手つかずの状態
この遺産の境界はすべて既存の3公園の境界に一致し、おかげでTNSのより広大な景観の中心部にひと続きの大きな保護区が形成されている。遺産全体は三国のひと続きの緩衝地域に囲まれている。それは、提案された遺産とその周辺の緊密な生態学的関係を考慮してのことである。このような取り組みによって土地の占有計画を統括できるうえ、地元住民・先住民の生業維持への正当な要求と、TNS景観全般での自然保護を共存させられるのである。国立公園内では熱帯林伐採と狩猟は禁止されている。そのうえTNSが周囲から遠く隔てられていることで、自然を資源開発からさらに守ることができる。森と野生種の管理、観光、農業、インフラ整備を含む、緩衝地域での将来の活動が、TNS保全という目的に沿うようにすること、しかも周辺景観がこの遺産のために実質的に「緩衝装置」として機能しながら、地元住民・先住民の必要が満たされること、そうした点を保証することが重要であろう。

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保護と管理の諸条件
遺産の共同管理は確実でしっかりとしており、関係3か国を結束させている。これは今後とも【遺産管理には】不可欠な条件である。この遺産を構成する3国立公園には政府が派遣した管理・行政スタッフが1人ずつおり、必要に応じてNGO、多国間機関、二国間機関からの国際的支援が【その業務を】補っている。管理、法の適用、研究、追跡、調査、観光には国境の両側での調整が必要である。すでに調査・行動3か国委員会が置かれ、大臣レベルで3か国を束ねている。また3か国調査委員会のほうは地方行政レベルで3か国を束ねている。これらの仕組みはよく機能し、共同での遺産保護、管理を確実にしているので、さらに維持し、強化するべきであろう。

バカ人〈BaAkas〉のような先住民や地元住民の権利と伝統的生業を守ることは重要課題である。そのことは遺産の管理においてますます認識されるようになってきた。ところがロベケ国立公園(カメルーン)には公園内に【住民向けの】利用ゾーンがあるのに対して、中央アフリカとコンゴ共和国では先住民による狩猟・採集を含む、住民の資源利用は保護区内で許可されていない。このことは住民の生業維持を妨げ、紛争の原因になりえる。だからこそ景観全体での自然保護と住民の資源利用の間で包括的バランスを見いだすことはひじょうに重要である。緩衝地域がいちじるしく拡大したおかげで、TNSの活力ある景観内で地元住民・先住民が感じている生業維持の必要性やかれらの知識をよりよく理解し、【それらの点を遺産管理に】組み込む好機が到来した。世界遺産リストへの登録は、この地で活動する地元住民・先住民の権利に関する一連の異なる約束が関係国によって実現されるチャンスなのだ。

遺産の生態学的価値が維持できるかどうかは、法の適用だけにかかっているわけではない。それは緩衝地域での資源の商業的掘削に関する規範と、周辺景観で暮らす地元住民・先住民が公園をどの程度受け入れ、支えるかにかかっている。

4.【世界遺産委員会は】関係3か国が、世界遺産委員会の35COM8B.4決定に対して共同で提出した建設的な回答に対して、とりわけ、遺産のための公式な緩衝地域としてさらに広大な景観を検討したことに対して、そして遺産管理への地元・先住民の有効な参加が必要だとより明確に認め、検討したことに対して心から称賛する。

5.【世界遺産委員会は】関係国に対して、緩衝地域の明確な境界を示した、縮尺がより大きく適切で、より優れた地図を2012年12月31日までに世界遺産委員会に提供することを求める。

6.【世界遺産委員会は】世界遺産リストに登録されれば、遺産とその緩衝地域の保護・管理にかかわる措置のいくつかをさらに改善できると考える。そこで関係諸国には以下のことを求める。

 a)遺産周囲に広大な緩衝地域を設定するという表明を好機として活用し、提案で示された約束に かなう、景観全体での総合的なアプローチをさらに準備すること。

 b) TNSの将来的な景観保護と管理に地元住民・先住民がもっと参加し、代表を送る権利をさらに増すこと。これは、この地域の豊かな文化遺産、伝統的な方法で資源を利用する権利の正当性、地元の豊かな知識、をきちんと評価しながら行うこと。そして諮問と協力のための有効でよりよい仕組みを設定しながら行うこと。

c) 狩猟区域と熱帯林伐採区において、最高度の社会・環境規範がより厳格に守られ、適用が監視されること。

 d) 3関係国間での観光の計画化も含めて、自然保護および管理計画にかかわる多様な活動のために、【関係3か国の】目的と指針をさらに調和させること。

 e)土地と資源の利用にかんする適切で首尾一貫した計画と緩衝地域での法適用を保証するため、各省・各分野の協力関係をいっそう改善すること。

 f)遺産のため、長期にわたる適切な資金援助を保証すること。ここには、自然保護のため、地元共同体の発展という目的のための基金の特別配分や観光収入の注入を全面的に支援することも含まれる。

7.【世界遺産委員会は】関係諸国が、分有する景観の保護・管理に長期にわたり、国境を越えて取り組んでいることに深い満足を覚えている。また、この取り組みに対する手厚く、現在も継続中の国際支援に対しても同様である。

8.上記の勧告を実行に移して得られた進展に関する報告書を今後2014年2月1日までに世界遺産委員会に提出すること。2014年の第38回世界遺産委員会では、これを使って考察が行われるはずである。

                             
独立行政法人環境再生保全機構より平成24年度地球環境基金助成金を受けて実施する「アフリカの熱帯林の環境保全と日本をつなぐ生物多様性保全の教育・普及活動」の一環として、このページを作成・公開しています。

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